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雨の裏庭

掌編未満のSSや思いついたシーンなどを気ままに書き散らしていくためのブログです。

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 2000年10月2日(月)

 間違えて学校へ来てしまったときの、このむなしさといったらどうだろう。

 学校へ来て鞄を置いて教室を見回して思い出した。今日は開校記念日だって。自転車置き場で気が付くべきだったんだ。いくらこの学校の生徒にはぎりぎりに来る人が多いからって、授業開始二十分前に自転車が全然無いなんてありえないって。
 深く深くため息をつく。間違えて学校来ちゃったよーなんて友達にメールしたら、馬鹿にされるのがわかりきっているのでしない。仕方ないからトイレに行ってから家へ帰ってもう一眠りしようと思う。それにしても、昨日先生から何の連絡もないってどういうこと? 朝の会も帰りの会もないから仕方ないのかもしんないけど、こういう情報が噂でしか入ってこないなんて何か間違ってる。学年の始めに配られたプリントなんて、んな長々となくさないでられるかっての。もう家のどこにも見あたらないよ、探したって。
 まあ、それにしたってうかつだったな、とは思うけど。

 トイレの鏡は小さかったから、廊下に張られた鏡の前で軽く前髪を直す。鞄から手鏡を取り出し、合わせ鏡で後ろ髪も。
 そのとき不意に、私の背後から男の人の声がした。
「こんにちは、お嬢さん」
 ものすごぅくうさんくさい声のかけ方だった。
「こ……こんにちは」
 振り向いてみれば、映画の中でしかお目にかかれないような整った顔の美形が立っていた。銀髪碧眼。外国人だ。あんまりアメリカンな押しの強い感じがしないから、ヨーロッパの方の人かも。英語の講師だろうか。でも、こんな先生見かけたことない。
 ……それにしても、さっきの声のかけ方。やっぱり外国の人にとっては「ボンジュール、マドモワゼル」レベルに普通の声のかけ方なのかなあ。その台詞で連想できるのは、小柄で禿げ上がった某探偵の顔と吹き替えの声だけなんだけど。っていうか、それフランス語じゃん。普通の公立校のうちにフランス語の講師なんか必要ないって。
「今日は学校は休みだよ」
「ええと、もう知ってます」
 さっきまでは知らなかったんだけど、それはもう過去の話だ。
「そう? だったらいいんだけど」
 銀髪美形はにっこり笑いながら顔を上げて、ふと鏡の中を見た。鏡の中には、私の手鏡が無数に連なって映っている。合わせ鏡にしたままだったんだ。その鏡の列を指して、銀髪美形は小首を傾げた。
「ところで君は、この鏡の列がどこまで続くか考えたことがあるかい?」
「……ええと……」
 何この話運び。ついて行けないんですけど。私が鈍いのか? いや、これは絶対この人がおかしいんだ。惜しいなあ、こんなに美形なのに変人だなんて。ていうか、変人だったらまだいいけど、まさか変態ってことはないよね? だったら私、大ピンチじゃん。ヤバ、隙を見て逃げ出さなきゃ。
「どこまでも、じゃないっすか?」
 逆切れされたら大変なので、とりあえず話を合わせてみる。
「つまり、無限だと?」
 銀髪美形の瞳がきらりと光ったような気がした。何? もしかして本格的にヤバイ感じ? 逃げる隙を探してるのに、そういうのが全然ない。やっぱピンチかもしんない、私。
「ええと……そうなんじゃないですか?」
 なんだこの人、という不審の念もあらわに眉根を寄せてみたのに、不審な男はにこやかな表情を崩さなかった。もちろん隙も出来なかった。段々危機感が大きくなってくる。マジそっち系の人だったらどうしよう。つーかどうなってんのこの学校の警備……って、普段の様子を見てればだいたいわかるけどさ。もうちょっとなんか考えた方がいいんじゃないの? 最近物騒なんだし。
「まあ、数学的にはそうなんだろうけどね」
 私の内心の葛藤になんて気付くはずもなく、銀髪美形は穏やかな調子で話し続ける。話してる感じは普通の人っぽい。日本語の発音完璧。日本語だけなら私の方がよっぽどヤバい自信ある。だけど、油断は禁物だ。ホントに最近いろいろ物騒なんだから。
「現実の問題として考えると、像の大きさが光の波長程度になった時点で形を成さなくなる。従って永遠ではない」
 ぐるぐる考えていた私は、ふと思考を止めて銀髪美形の顔を見上げた。
「……そう、なんですか?」
 純粋に、おどろいた。一応物理の授業を取ってるから、光の波長、っていうのはわからなくもない。光っていうのは要するに波だから、波の大きさより像が小さくなっちゃったらもうそれを「見る」ことはできなくなっちゃうんだ。
「……そっか。永遠じゃないんだ」
「そうなんですとも」
 銀髪美形は笑顔で頷いた。
「それじゃ、呼び止めて悪かったね。今日は学校は休みだって、さっきも話したけれど、ひと気がないから、ここはあまり安全な場所じゃない。早く帰ったほうが良いよ」
「あ、そうですね。……どうも」
 銀髪美形がえらく常識的な結論を出してくれたので、私は心底ほっとして頭を下げる。
「うん。それじゃ、気をつけて」
 軽く手を振って背を向けた銀髪美形を見送って、もう一度鏡を振り返ってぞっとした。振り返った鏡には、私しか映っていなかったのだ。銀髪男はまだ、角を曲がっていなかったのに。
 何度か振り返って振り返って鏡の中と外を見比べて、私は天を仰いだ。
 そっち系なのは私の方か。
 もうだめだ。幻覚見えてるんだ。帰って寝よう。
 ちくしょう、明日あたり、サエに変な夢見ちゃったって自慢してやる。あいつこういう話大好きだったよな、確か。
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